サイゾー、2006年6月

東京サーチ&デストロイ (第2回)

今年のはじめに恵比寿みるくで知り合った吉田大輔君から、『仲間と自主レーベル立ちあげたっス。記念のパーティをやるので良かったら是非。』というメッ セージと共に、気合の入った変形フライヤーとステッカーが郵送されてきた。薄手の半透明塩ビで作られた、インフォメーションが印刷されている腕の部分を開 いていくと太陽のような形になるそのフライヤーはちょっとした物で、制作費も結構掛かってるだろう、こういった趣向は嬉しいやね。ということで、 CORNERDISC立ち上げパーティー『緑青』を覗きに吉祥寺のWarpまで行ってみた。
24:00のオープンから若干遅れて入場すると、Warpの中はもう既にB-BOY君たちで一杯で、B2Fのライブ・スペースでは『KOCHITOLA HAGURETIC EMCEES』というグループが奔放なステージで場を盛り上げている。如何にも地元の悪ガキですといった風情の彼らは、なるほど『緑青』を「ROKU? BURU」=「ろくでなしブルース」と読ませるってのはこういう事か、とこちらを納得させる雰囲気を持っていた。吉祥寺という街は23区が終って「郊外」 が始まるその接点上にあり、東京における豊かなローカリティの西の代表とも言える場所だと思う。HIPHOPはこういった「街」の息吹を十分に受け止める ことの出来るフォームであり、吉祥寺を遊び場にして育った不良たちの「音楽」が、このパーティには溢れていた。おそらく現在、HIPHOPとして括られて いるカルチャーの裾野は、一九五〇年代のモダン・ジャズのそれと同じくらいに広いだろう。その時代の気配をダイレクトに移し込んだポップ・アイコンである と同時に、シリアスな音楽的実験所でもあるHIPHOPに対するイメージは、人によって物凄い触れ幅があるのではないかと思う。それこそ隆盛期の特徴では あるが、しかし、HIPHOPもそのコアは、まさにモダン・ジャズと同じようにひとつひとつの現場にこそ存在する。TVなどのマス・メディアはむしろここ では「周縁」なのだ。
ステージには、ジェイアイエヌ(tt,mic),クモユキ(fedarboard,mic),研吾(MPC),UMU(PC,drummacine, etc)による「十三画」が登場し、長机上に整然と並べられた機材を自在に操りながら、全員が一丸となってビートをクリエイトしてゆく。四人が互いの音を 聴き合い、まるでフットサルの試合の様にそのフォーメーションを刻々と変化させながら、サンプルとプログラムとスクラッチをレイヤーして、音のフィールド を切り開いてゆく。その演奏は強力にアブストラクトかつスポーティな素晴らしいものだった。しかもグッド・ルッキングでRAPもこなせる。彼らはまだ世間 的には無名だろうが、これから必ず話題になってくるはずだ。「十三画」。僕の中では今年のブライテスト・ホープだ。
午前3時を回ってもまったく熱量が下がらず、むしろあたらしいお客でさらに混雑してきたフロアで、DJ KLOCKによるビート・ジャグリングの名人芸 をしばらく見てから、僕はWarpを後にした。もう始発が動きはじめている。駅の周りの小さな繁華街にはまだぽつぽつとキャバクラの客引き陣が立ってお り、どの店の人も何故かみなスレていないというか、武蔵野のイイ兄ちゃん風なのが妙に可笑しかった。吉祥寺サーチ&デストロイ。